山口歴 スペシャルインタビュー | EAFF E-1フットボールチャンピオンシップ2022 公式試合球

SPECIAL INTERVIEW
File03Meguru Yamaguchi
現代アーティスト

山口 歴

http://www.meguruyamaguchi.com/

1984 年生まれ。東京都渋谷区出身。2007年に渡米し、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動している現代アーティスト。絵画表現における基本的要素「筆跡/ブラシストローク」の持つ可能性を追究した様々な作品群を展開。代表的作品群"OUT OF BOUNDS"では「固定概念・ルール・国境・境界線の越境、絵画の拡張」というコンセプトのもと、筆跡範囲を制限してしまうキャンバスの使用を止め、筆跡の形状自体をそのまま実体化する独自の手法によって、ダイナミックで立体的な作品を制作し続けている。90 年代から2000 年代初頭の東京ストリートカルチャーの変遷を経験して育ち、渡米後は、ALIFE、BILLIONAIRE BOYS CLUB、FTC、NIKE 等アメリカのストリートカルチャーを代表するブランドの他、多くの国内外企業とのコラボレーションも行なっている。

挑戦することの価値とは何なのか?
世界のファッションやカルチャーの中心である大都市ニューヨークを舞台に、日本のアートシーンを牽引する山口歴さんから「夢見ること、そして挑戦すること」をテーマに、自身の生き方や成功の定義を語ってもらった。
エンターテイメントがないと心にもゆとりが無くなるし、殺伐としてしまう

――世界中が新型コロナウイルスの影響で大きなダメージを受けている中、山口さんが感じたことは何でしょうか?

自分の生活って凄くシンプルなんです。
世の中がどんな状況であれ、常にスタジオと家の往復で、ひたすら作品を作る生活なんですけど、このコロナウイルスの影響で、7年在籍していたブロンクスのスタジオに行けなくなってしまったんです。
かといって作品を作るという自分達の基本的なベースは変わらないんですが、それでも僕個人としては、色々な事と向き合う良い時間になったんじゃないかとも感じてます。
自分にとって何が本当に大切で、何が雑音だったのか。
そういう本当に大事なものに気づけるような時間を与えてもらったと言うか、自分の本質と向き合う為の大切な時間を与えてもらったんじゃないのかなとは思います。

――このコロナ禍で、現代アーティストとして、ARTやエンターテインメントに対する価値とか必要性をすごく問われた1年間だったかと思いますが、山口さんはどのように感じましたか?

ステイホーム中に多くの人が音楽やアート、映画などのエンターテインメントに救われたと思います。
逆に「そこがなくて大丈夫なの?」って言うか、エンターテイメントがないとやっぱり心にもゆとりが無くなるので、もっと殺伐としてしまうと思うんですよね。

――確かにそうですね。それはやはりエンターテインメントの必要性を強く感じたということでしょうか?

このコロナ期間中、僕のスタジオの需要が上がったんです。
それってステイホームでみんなが家にいて、絵画を見る時間だったり、音楽を聴く時間だったり、映画を見る時間だったり、そういう時間が増え、改めて人々がエンターテインメントの重要性みたいなことに気付いたんじゃないかと思うし、その必要性をちょっとでも感じてくれたのなら嬉しいですね。

昨日の自分よりどれだけ自分自身に挑戦出来たか

――たしかに、そういう意味ではみんなちょっと立ち止まって考えた時期ではあるのかなと思いますね。
その上で、現代アーティスト山口歴として、今後どういうアプローチで挑戦をしていきたいみたいなことってありますか?

全く変わらないですね。
コロナであろうが、コロナじゃなかろうが、挑戦こそが自分の人生だと思っているので、世の中の状況がどうっていうことは、自分のアーティスト活動には関係ないと思ってます。
アーティストは常に進化していくべきだし、自分の作品に満足したくないですし、満足した途端につまらなくなってしまうと思うので、そのスタンスは全く変わらないです。

――お話を聞いていると、アーティストとしてすごく真摯というか、作品を作ることに飢えている感じがするのですが、いかがでしょうか?

そうですね。2017年からアーティストとして飯が食えるようになったんです。
お金はもちろん必要ですし、お金を稼げなくてもいいなんてマインドはめちゃくちゃナンセンスだと思いますが、そこが一番の軸ではなくて、自分のやるべきことと真摯に向き合っていれば、後からついてくるものだと思ってます。
実際僕自身がそうでしたし、自分の直感やセンス、インスピレーションを信じ続ける事が出来るか、が鍵だと思っています。

売れた周りのアーティストを見ていても、作品以外の「高いか、低いか」を基準にしてる人も多いです。だけどそう言ったことは僕の中では本当にどうでも良くて。
そういうことじゃなく、昨日の自分よりどれだけ自分自身に挑戦出来たか、っていうところに軸が無いと、簡単にブレて行くんだなと思いました。
自分に対して振り返ると、自分は良い作品を作り続けていきたいですし、自分の中の自分さえも知らなかった、カッコいい作品に出会っていきたい。

――本当にその通りだと思います。
自分自身の価値基準となる軸をしっかり定め、ブレずに進んできたことが、今の山口さんの作品にも反映されていると思いますが、逆に思い通りにいかない事や悔しい思いもたくさんされたと思いますが、その時はどうやって乗り越えられたんでしょうか?

もう悔しいことだらけですよ、やっぱり。今も上手く描けなかった日は悔しいです。
そんな状況をどうやって乗り越えてきたって言ったら、ひたすら作品を作り続けてきたってことだけでしかないんです。作り続けることでしかその先は見えないから、やっぱり辛くてもやり続けるべきなんですよね。
そしたらいつかは絶対晴れる日が来るし、やり続けてれば想像もしてなかったような景色が絶対に見れる。後から振り返ったら「あの時期って辛かったけど、実は成長出来てた幸せな日々だったんじゃないか?」って思うんです。
悔しかった記憶も、行ける所まで貫き続けたら、幸せだった思い出に変える事ができるなと思ったんです。過去は書き変えられるなと。

――それってニューヨークでの生活の事も含まれていると思うんですが、全く知らない土地に身を置くことに対して、何が一番大変でした?

大変って全てが大変で、水道代や電気代、ガス代を払うのも英語じゃないですか。
知らないうちに電気が止まって、ロウソクで3日間過ごすこともあったりしましたね(笑)。
最初は英語力がないから簡単ではないし、それでもやっぱり自分でやらないといけないし、その前にすごく適当なんですよ。自由に生きてる人達の集まりなので、めちゃくちゃサービスとか適当だし、ニューヨークで住むって大変なことでしかないんですよ(笑)

だけどその不便さに嘆くんじゃなくて、その中に喜びや楽しみを見つけて、日々謳歌することが凄く重要だと思ったんですよ。不満や不安、社会の負の側面を見始めたらキリがないと思うんです。NYにいて感じることって、めちゃめちゃ自由なんですよ。
働いているやつも自由だから、お互い別に気を使わないし、スーパー行っても、YouTube見ながらレジ打ちしている奴いますから(笑)。
「それって日本だったらどうなの?」って話ですけど、ここはアメリカだし自分は逆に「すげー自由で最高にエンジョイしてるじゃん!」って思います。
自分の人生を楽しむっていうことに対してみんなが一生懸命だし、そういうのが重要なのかなって思うんですよね。辛い中にも良い側面を見つける。喜びを歌っていく、という事が大切なんじゃないかと思うんですよね。

アーティストの表現って「HUNTER X HUNTER 」の「念能力」にすごい似てる

――その辛さが現代アーティスト山口歴を創る大きな要因だったのかもしれませんね(笑)。
そういった環境の中で自分自身の軸を定め、積極的にいろいろなジャンルと融合して新しい価値観を生み出していると思います。今回のサッカーボールもそうだと思うのですが、現代アーティスト山口歴の挑戦において、新しい価値観を生むことに対して、意識している事はあるでしょうか?

そうですね。 例えば今回のサッカーボールでいうと、逆にこういうデザインが「なんで今までなかったのかな?」って思うんですよ。ブラシストロークって技法自体は昔からあるモノだし、別に僕が新しい事を先陣切ってやっているという訳ではないんです。
今世の中にあるアイデアで新しいとされるものって、何かと何かの組み合わせで出来てる物だと思うんです。サンプリングの組み合わせのセンスの良さの勝負というか。
ヒップホップの始まりも、大変だった時代の中、人々が一晩中踊れる様に、クール・ハークが同じレコードを2枚使いし始めたからっていう話がありますし。
既存の物の見方を変えて、何かを組み合わせる事で全く新しい価値観を生み出す、そう言ったことは意識してるかもしれないです。
自分がやってる筆跡で誰もやっていない、たとえばアパレルブランドやスポーツブランドとのコラボ、作品で言えば、キャンバスの枠を外して筆跡自体を浮かすこと、そういう所を見つけようとしたのは事実で、狙っていったつもりです。
だからこそ本気で、世界一の筆跡を作る鍛錬を毎日しているんです。

――カッコいいものを作りたいし、カッコいいと思われる表現もしたい。
その上で人に見られる作品なら、常にカッコよくなければいけないっていう、すごく飢えていて、人間味があって、泥臭い感じがしますし、すごいなぁと思います。

誰でも入りは真似しやすいスタイルだと思うんですよね。
「それ(ブラシストローク)って誰でも出来るじゃん?」みたいな見え方する人もいて、自分の表層的な部分だけ捉えて真似してくる人たちもいるんですね。

アーティストの表現って「HUNTER X HUNTER」の「念能力」にすごい似てるなって常々思うんです。
まず人それぞれ特性があって、ある程度基礎が固まったら自分で自分のスタイルを作れる。だけど本当の意味での自分の良さや、本当に自分が好きなものにしっかりフォーカスしてないとその能力は開花しない。

自分で言ったら初めて高一の時に生で見たゴッホのブラシストロークに衝撃を受けたこととか、小学生の頃書道を習ってたこと、ストリートカルチャーも大好きだった。アメリカから日本に10年間帰れなくて、国境というアウトラインについて考えたり、キャンバスという既成概念の枠を破壊したいと思った。
そう言った過去の経験全てが現在の自分の表現を形成してるし、それらの経験を元に、それまで見た事ない組み合わせで生み出される何かが、その人自身の本当のオリジナルだと思ってます。

今僕のスタイルみたいな人たちがすごく増えたんですよ(笑)。
「今こういうことすれば売れるんじゃないか?山口歴みたいな感じで。」って人がいるんですけど、そいつらよりもカッコいい物作ってるって自信はありますね。
上澄みだけすくった様な筆跡を見ても必然性も意志も感じられない。自分のリアルの経験じゃ無い、本当の自分のバックグラウンドも無しに、良いものなんて生み出せるはずがないんですよ。
それは一見、目には見えづらい事だし、サッカーの試合みたいな明確な勝ち負けが出ることではないんですけど、やってる本人達同士なら解るはず。こっちは自分と向き合い続けて、人生懸けて本気で毎日作品作ってるんで。

本気で挑戦し続けてれば「めちゃくちゃあの時間楽しかった。幸せだったんだな。」って

――ブラシストロークにおいて第一人者として、いろいろなモノに真摯に向き合い、常に挑戦し続けている山口さんですが、最後にこの記事を読んでくれている人たちに「夢見ることや夢を叶える秘訣、挑戦することの大切さ」についてメッセージを頂けるでしょうか?

夢を見る事って生きるって事だと思うんですよね。
理想論かもしれないけど、誰もが自分のやってることに夢中になっていて欲しい。

岡本太郎さんも46歳からスキー始めて、直滑降で滑りまくってたって逸話があるんですけど、それって「やる気があるかどうか」の話で。 だからこそ諦めないでほしいっていうか、年齢や肩書きとかじゃなくて、何歳でも本気で始めようと思えば、なんだって出来るとは言えないかもしれないですけど、やってみなきゃわからないじゃないですか。最初の一歩の足の重さもわかるし、上手く行かない日だってあるけど、本気で挑戦し続けてれば「めちゃくちゃあの時間楽しかった。幸せだったんだな。」って思える日が来るはずなんです。悔しかったあの日々も全て愛しき日々だったんだなと。

そんな風に生きれたら最高だなっていつも思ってます。

[STAFF]
Model : Meguru Yamaguchi
Photography : Hiroki Irie / Jimmy Pham
Movie Direction : Ryo Imai【kageiroha】

Creative direction & Text : Katsusuke Inomata【UMIDASU Co, Ltd.】